よく生きる未来レポート Vol.1 「私たちは植民化されている!?」
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「よく生きる未来レポート」Vol.1(2022年8月号)
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皆さん、こんにちは。よく生きる研究所の榎本英剛です。
まずはこちらのニュースレター、「よく生きる未来レポート」を開いていただき、ありがとうございます。
ホームページの方に書かせていただいたように、来る9月初旬からいよいよCalifornia Institute of Integral Studies(CIIS)における「人類学と社会変革」の博士課程がスタートします。それに先立って、この記念すべき創刊号では私がこの研究に取り組むにあたって出発点となった問い、すなわち「どうしたら人類は現在直面しているグローバルかつ複合的な危機を乗り越え、すべての存在がよく生きられるような未来を築くことができるか?」という問いを探求する上で1つのカギを握っているのではないかと感じていることについて書いてみたいと思います。
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今回のテーマ:「私たちは植民化されている⁉」
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そのカギを握っているものとは、ずばり「植民化」です。え?「植民」って歴史とかで習う植民地で言うところの植民?いったいいつの時代の話をしてるの?と思われる人もいるかもしれません。確かに、主に欧米諸国がアジアやアフリカ、南米などにいわゆる植民地を持ち、目に見える形で直接的に支配していた時代は1970年代にはほぼ終わりました。しかし、人類が現在直面する「グローバルかつ複合的な危機」がどこから生まれてきたのかについて探求している中で私が気づいたのは、「植民地はなくなったかもしれないが、植民化はまだ終わっていない」ということです。いや、むしろ植民化の方法が「植民地の直接支配」という形からさらに進化し、高度化したことで、その度合いは以前よりもひどくなり、植民化されている人たちの数も圧倒的に増えたのではないかとさえ感じるようになりました。かくいうこの私も植民化されていることを痛感していますし、もしかしたら今このニュースレターを読んでくださっているあなたも植民化されているかもしれません。
ここではっきりさせておかなければならないのは、私が言う「植民化」が何を意味しているのかということです。まず「植民地」というのは、ご存じの通り、ある国が別の国を自国の利益のために政治的・経済的に支配することです。この植民地化の過程の中で、被支配国の人たちはもともと持っていた自由や権利を奪われ、抑圧や搾取の憂き目にあうことになります。さらに、支配する側はその状態を正当化するため、教育やメディアを通じて支配される側の価値観や世界観を変えようとします。そして、ついには支配されている人たちの中にはその状態を「自然なこと」、「当たり前のこと」、あるいは「仕方がないこと」として受け入れる人たちが増えてきます。そのような過程を経て、自分たちの人生や生活に関わることを自分たちで決める力(自決力)を大部分奪われ、しかもそれを受容させられた状態を「植民化」された状態と呼ぶことができるのではないかと私は考えています。
先ほど「植民化がさらに進化し、高度化したことで植民化されている人たちの数はむしろ圧倒的に増えている」と書きましたが、それは20世紀の2つの世界大戦を経て民族自決の動きが高まり、ほとんどの植民地が政治的な独立を果たした後も、経済的あるいは軍事的な援助などを通じて間接的に支配するという、いわゆる「新植民地主義(ネオ=コロニアリズム)」に置き換わっただけで、実質的にはいまだ植民化された状態が継続していることを指しています。それと同時に、いわゆる旧宗主国(植民地を支配する側の国々)の国内においても自決力を奪われ、抑圧や搾取の憂き目にあっている人たちが大勢います。そのことが日本のような国においてあまり話題になったり、問題視されたりしないのは、教育やメディアなどを通じて今のような状態が自然で当たり前の状態だと思い込まされているからであり、これがまさに植民化されているということなのです。
では、植民化されているというのは具体的にはどういうことなのでしょうか?たとえば、日本でも多くの人はお金がなくては生きていけないと思っているし、お金を得るためにはたとえ自分の意に沿わない仕事でも我慢してやらなくてはいけないと思っているのではないでしょうか?でも、はたして本当にそうなのでしょうか?人類の長い歴史において「お金」や「仕事」といった概念やしくみが登場したのは比較的最近のことであり、そんなものがなくても人類はそれまでちゃんと生き延びてきたわけです。つまり、それらは「当たり前」のことでも「自然」なことでもないのです。そして、ここでもう1つ考えなくてはならないことは、それらの概念やしくみがあることでいったい誰が得をしているのか、ということです。現在のような資本主義の世の中では、資本や生産手段を持ったいわゆる「資本家」にとって、これらの概念やしくみを必要不可欠と考え、それに依存する人たちが大勢いることは非常に好都合です。ここでは、この特定の問題についてこれ以上深入りはしませんが、今後のニュースレターの中でもいろいろな切り口から取り上げていきたいと思っています。
ホームページの案内文において、私は人類が現在直面するグローバルかつ複合的な危機を乗り越え、すべての存在がよく生きられるような未来を築くためには、「3つのしくみ」を根本から見直す必要があると書きました。すなわち、「主権国家や代表制民主主義という政治的なしくみ」、「資本主義や市場経済という経済的なしくみ」、そして「上記2つのしくみを下支えするナラティブ(物語)という文化的なしくみ」の3つです。先ほど植民化の例として挙げたお金や仕事の問題はこのうち2つ目の資本主義というしくみと関連する問題です。では、1つ目の「主権国家や代表制民主主義という政治的なしくみ」における植民化とはどのようなものでしょうか?なお、これら主権国家や代表制民主主義といった概念やしくみも人類の長い歴史の中では比較的最近登場したものです。しかし、どうでしょうか?多くの人は、国家というのはあって当たり前で選挙で選ばれた議員という国民の代表が私たちの人生や生活に関わる大事なことを決めるのは自然なことで、それこそが民主主義だと思っているのではないでしょうか?でも、はたして本当にそうなのでしょうか?そして、これらの概念やしくみがあることでいったい誰が得しているのでしょうか?
私は少し前まで日本という自称「民主主義の国」に生まれ、暮らしている自分は自由で平等な社会に生きていると疑いもなく信じていました。相対的に見れば、確かにそうなのかもしれません。しかし、グローバルかつ複合的な危機がどこから来ているのかを探求していくうちに、必ずしもそうではないということに遅まきながら気づくようになりました。3つ目の「ナラティブ」というのは、あたかもそれが真実であるかのように特定の文化の中で語られ、まかり通っている物語のことであり、たった今ご紹介した「民主主義の国に暮らしている人は自由で平等な社会に生きている」というのも1つのナラティブだと言えますし、ここまでに例として挙げた「お金がなくては生きていけない」「お金を得るためには自分の意に沿わない仕事でも我慢してやらなくてはいけない」「国家というのはあって当たり前」「選挙で選ばれた議員が私たちの人生や生活に関わる大事なことを決めるのが民主主義」というのはすべて既存のしくみを下支えするナラティブだと言えます。そして、これら3つのしくみがまさに「三位一体」となって私たちがそうと知らないうちに私たちを植民化している、そんな気がしてならないのです。
もし仮にそうだとして、そしてそれこそが現在私たち人類が直面するグローバルかつ複合的な危機を生み出しているとした場合、これらの危機を乗り越えるために私たちがまず取り組まなくてはいけないのは、自らを「脱植民化」することだと思います。脱植民化するというのは、これらのしくみが決して自然で当たり前でもなければ最善のものでもないと気づくことであると同時に、別の、より良いしくみがあり得る可能性について心を開き、それを探求することだと私は考えています。このニュースレターでは今後、これら3つのしくみを中心に、いかに私たちが日頃当たり前だと思っているしくみが当たり前なものではなく、むしろ多くの問題を生み出しているかということについて取り上げると同時に、別の、より良いしくみとしてどんなものが考えられるのか、そしてどうしたらそのようなしくみが実現できるのかについて、博士課程での学びと結びつけながら、「よく生きる未来を切り拓くための社会変革」というテーマで皆さんにご報告していきたいと思っています。今後ともどうぞよろしくお願いいたします!
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皆さんへのお願い:このニュースレターはご支援をいただいた方々に向けて心からの御礼を込めて書いたものであるため、無断で転送したり、転載したりしないようお願いいたします。もしこのような内容に興味を示してくれそうな方が周りにいらっしゃれば、ホームページの「支援のお願い」ページ(www.yokuikiru.jp/crowdfunding/)をご案内いただければ幸いです。
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